癌薬物療法の副作用

癌薬物療法における有害事象としての消化器症状は,患者の治療中のQOLを損ねるだけでなく,治療継続を困難にする原因の1つである。消化器症状は患者の帰宅後に起こるものが多く,発現する可能性のある消化器症状を治療導入前に十分に患者に理解させ,万一発現した場合の服薬管理を含むセルフマネー

正文

癌薬物療法における有害事象としての消化器症状は,患者の治療中のQOLを損ねるだけでなく,治療継続を困難にする原因の1つである。消化器症状は患者の帰宅後に起こるものが多く,発現する可能性のある消化器症状を治療導入前に十分に患者に理解させ,万一発現した場合の服薬管理を含むセルフマネージメントの教育は,必須である。

悪心・嘔吐1)2)

悪心・嘔吐は,癌薬物療法を受ける患者のほぼ100%に認められ,脱毛とともに患者にとってもっとも重大な副作用であることを医療者は認識すべきである。したがって,エビデンスに則った予防的処置はきわめて重要である。

A. 発生機序

悪心・嘔吐は延髄の嘔吐中枢(VT;vomiting center) が刺激されて発現する。嘔吐中枢への刺激は以下の3 つの経路が知られている(図1)。
(1)薬物投与により消化管の腸クロム親和性細胞からセロトニンが放出され,上部消化管に存在するセロトニン(5-HT3)受容体に結合し,迷走神経を経由して嘔吐中枢に入る経路
(2)薬物投与により消化管の腸クロム親和性細胞からサブスタンスP が放出され,NK-1 受容体を介して第4 脳室最後野の化学物質受容体野(CTZ;chemoreceptor trigger zone)を刺激して嘔吐中枢に入る経路
(3)情動刺激などで起こる大脳皮質からの刺激が嘔吐中枢へ直接入る経路

図1
癌薬物療法時の悪心・嘔吐の発生機序B. 分類

発症時期により,薬物投与24時間以内(多くは1~2時間で発現)の急性嘔吐(acute emesis), 薬物投与24 時間以降(2~3 日目がもっとも強く,1 週間程度持続する)の遅発性嘔吐(delayed emesis)に分類される(図2)。そのほかに,過去の薬物療法時に経験した悪心・嘔吐に対する心因性反応として,薬物投与前から発現する予測性嘔吐(anticipatory emesis)がある。急性嘔吐は,先述の(1)および(2)が機序と考えられるが,遅発性嘔吐は(1)~(3)のすべてが機序と考えられる。

図2
急性嘔吐と遅発性嘔吐C. 催吐リスク分類(表1)

急性・遅発性嘔吐の両者ともに90%以上に発現する高度リスク(HEC;high emetic risk), 急性嘔吐が30~90%に発現し遅発性嘔吐も問題になる中等度リスク(MEC;moderate emetic risk),急性嘔吐が10~30%で遅発性嘔吐は問題にならない軽度リスク(LEC;low emetic risk),10%未満の最小度リスクに分類される。

表1
催吐リスク分類D. 診療アルゴリズム

『制吐薬適正使用ガイドライン』の診療アルゴリズムを図3に示す。

第一世代の5-HT3受容体拮抗薬は,薬剤の種類や投与経路(静注,経口)によって急性嘔吐の予防効果に差はない。第二世代の5-HT3受容体拮抗薬であるパロノセトロンは,急性嘔吐の予防効果は第一世代の5-HT3受容体拮抗薬と同等であるが,遅発性嘔吐の予防において優れている。これは,5-HT3受容体への親和性が約100倍高く,また,血中半減期が40 時間と長いことによる。

選択的NK-1 受容体拮抗薬のアプレピタントは,第一世代5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンの2 剤併用療法でも完全抑制が困難であった遅発性嘔吐に対しても有効性を示す。使用上の注意として,本剤はCYP3A4 による代謝を受けるため,同じCYP3A4 で代謝されるデキサメタゾンは制吐薬として使用する場合には減量が必要である。しかし,抗腫瘍薬としてデキサメタゾンを使用する場合の減量は推奨されていない。

図3
診療アルゴリズムE. その他

診療アルゴリズムの原則は,症状が発現してからの対応ではなく,適切な制吐薬を予防的に使用することであり,多剤併用療法の際は,催吐リスクがもっとも高い薬剤に対する制吐薬を使用する。

管理不良な悪心・嘔吐を万一認めた場合は,制吐補助薬として,ドパミン受容体拮抗薬(メトクロプラミド,ドンペリドン,プロクロルペラジン,ハロペリドール),抗不安薬(ロラゼパム,アルプラゾラム,ジアゼパムなど),抗ヒスタミン薬(ヒドロキシジン)などを適宜併用する。

悪心・嘔吐が遷延する場合には,抗癌剤以外の薬剤(オピオイドなど)による副作用,急性胃炎や消化性潰瘍,癌による消化器症状,電解質異常,脳脊髄への転移など,他の原因を常に念頭におかなければならない。

骨髄抑制とは,外的な要因によって造血能が障害されることを原因として生じる血球の減少を指す。本稿は,外来化学療法における骨髄抑制への対応に主眼をおきながら,抗腫瘍薬全般の造血への影響についても触れたい。

造血の仕組み

造血は,造血微小環境のなかで,造血幹細胞が,サイトカインや接着因子によって制御されながら,自己複製と各細胞系列への分化を行うことにより保たれている。それに関連するサイトカインについては,分化が進行した段階で作用する,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)やエリスロポエチンといったすでに臨床応用されているものをはじめとして,各系列,各分化段階で作用するさまざまなものが知られているが,その血球制御のメカニズムについては,十分には判明していない。抗腫瘍性の化学療法剤のなかには,ニトロソウレアのように,多能性幹細胞レベルでの造血障害をきたしやすく,遅延して血球減少を生じる薬剤や,その下流の造血前駆細胞レベルの障害が中心となる薬剤がある。また造血障害をきたしやすい薬剤や,きたしにくい薬剤があるため,化学療法を実施する際には,薬剤の特性を十分把握したうえで選択し,利用し,その副作用に対応する必要がある。

細胞周期

化学療法剤は,通常,細胞内の遺伝子(DNA)や染色体に作用し,腫瘍細胞の増殖を阻害する。正常細胞の増殖も同様に障害するため,骨髄抑制の原因となる。分子標的薬の場合は,異常発現する遺伝子に対する阻害であるため,従来の抗腫瘍薬のような骨髄抑制は生じにくいが,同時に増殖分化に関連する遺伝子発現を抑制し血球減少を生じる場合もあるので,留意が必要である。細胞分裂にあたってDNA の複製が必要になるが,DNAの複製を経て細胞分裂に至る道筋は,細胞周期と呼ばれ,図1に示すようにG0,G1,S,G2,M期に区別されている。化学療法剤は,それぞれの特性に合わせて,抗腫瘍効果を強く発揮する細胞周期がある。したがって,化学療法を行う場合には,薬剤の効果発現の特性を十分理解したうえで使用する。一般的に休止期にある細胞に比べて,細胞周期に入っている細胞は,抗腫瘍剤に対する感受性が高い。これは,正常細胞傷害性すなわち骨髄抑制の強さにつながる。抗腫瘍剤と,顆粒球コロニー刺激因子(以下G-CSF)の併用が原則禁忌となっているのはこのためである。

図1
細胞周期骨髄抑制とその回復

抗腫瘍剤による骨髄抑制には薬剤によって,またその組み合わせによって,発現時期やその系列,強さに一定のパターンがある。それに習熟することが必要であるが,同時に個々の患者の過去の治療歴も含めた特性に大きく影響される。骨髄抑制のもっとも強い時期をnadirと呼ぶ。Nadirからの回復は,使用薬剤によって各血球系統で微妙に異なるが,通常ほぼ同じ時期に回復が始まる。もっともわかりやすい指標は,網状赤血球の動きである。網状赤血球が増加に転じれば,赤血球数は直ちに増加するわけではないが,造血全体が回復機転に入ったと考えられる。好中球の回復に先立って単球の増加が認められる。血小板数の増加もこの間に始まる。3系統の回復徴候が1つも認められないときは,血球減少はさらに進んでゆくと考えられるので,引き続いて慎重な経過観察が必要である。

外来化学療法と骨髄抑制

外来化学療法と骨髄抑制について考えるにあたってもっとも重要なことは,その治療が根治もしくは病状の大きな改善を目指したものか,病状進行の抑制もしくは緩和的なものかという点にある。前者であれば,骨髄抑制に随伴した合併症は克服すべき副作用であり,後者であれば,回避すべき状態と考えられる。

初回の化学療法は入院にて行い,どの程度のnadirがどの時期に生じるか,どの血球から立ち上がるか,そのほかにどのような副作用が生じるかを確認することは,その後の外来での化学療法の管理を容易にする。

外来での骨髄抑制への対応

外来での化学療法については,常に医療者の目が届く状態にないため,骨髄抑制に随伴した異常が生じた際には,直ちに初期対応と医療者への連絡が行われるよう十分なインフォームド・コンセントを得る必要がある。また,異常が生じた場合の対応について,患者の居住環境,全身状態に応じて近隣医療機関への依頼も含め,環境を整備しておく。

骨髄抑制については,外来診療では,点でしか血球数をチェックできないため,受診のタイミングと評価には慎重な判断が必要である。姑息的治療においては,血球減少による大きなリスクや,QOLの低下,在宅期間の短縮を生じることは避けなければならず,逆に根治的治療においては,リスクが高まった場合には,強力な対応や,一時的入院による治療継続を積極的に考える必要がある。

A. 白血球(好中球)

外来化学療法での骨髄抑制による合併症でもっとも問題となるのは,発熱性好中球減少症(febrile neutropenia,以下FN)である。

FNの定義としては,わが国では,好中球数が500/mm3未満,あるいは1,000/mm3未満で48時間以内に500/mm3未満に減少すると予測される状態で,腋窩温37.5℃以上(口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合をいうことが多い1)。外来化学療法は,原則として,FNが生じる範囲外,すなわち好中球のnadir が500/mm3を下回らないような設定が基本となる。好中球は,G-CSFによって増殖刺激を受ける。化学療法に随伴する好中球減少時のG-CSFの適正な使用に関しては,現在完全に確立したガイドラインはない。FNを生じた場合,初期対応として抗菌薬の投与が必要となるが,表1に示したように,米国感染症学会(IDSA)のガイドライン2)では,発症時点で,MASCCスコア3)が21以上の場合には,低リスク群として外来で経口抗菌薬を用いた治療が選択可能であるとされている。

図2に,どのような場合に外来経口薬対応が可能かのシェーマを示した2)。21 未満の場合には,高リスク群として入院かつ静注抗菌薬が原則となる。2010 年のIDSAのガイドライン2)ではFN 発症の確率4)が20%以上のプロトコールもしくは10~20%の場合でも危険因子を合併する場合には,G-CSF の予防投与が許容されている。治療中にFN を生じた場合のG-CSF の使用については,ASCO のガイドラインを表24)に示したが,MASCC スコアなども勘案しつつ,外来での経過観察を続ける場合には,G-CSF の投与と厳重な経過観察が必要である。化学療法の目的と患者の全身状態によって,次回治療の,減量,延期,入院での実施,プロトコール変更などを判断する。

化学療法は,基本的に免疫抑制的に作用することも考慮すべきである。

表1
MASCC リスク指数
図2
外来対応可能なFNの条件
表2
FN 発症時にG-CSF 使用を考慮する場合
B. 血小板

血小板減少については,血小板数6,000~80,000/mm3のあいだで,WHO の重症度分類でGrade II以上の出血の頻度は変わらないという前向き研究での報告5)がある。急性白血病などでの,強力な化学療法施行時の血小板輸血のトリガー値は,現在10,000/mm3でほぼコンセンサスが得られている6)。しかしながら,十分な根拠はないものの,固形腫瘍の化学療法においては,腫瘍崩壊による出血のリスクを考え20,000/mm3に保つべきという,ASCOのガイドライン7)もある。また,炎症が生じると出血傾向は増す8)。転倒などによる頭部外傷などの出血のリスクを考えると,外来治療の場合にはnadirを50,000/mm3程度に保てるよう治療計画を立てるべきであろう。

外来化学療法に伴う血小板減少症に対する血小板輸血については,外来での加療が継続される場合には,血小板製剤入手の不確実性も考慮し,20,000/mm3を維持するよう輸血計画を立てることが現実的である。血小板輸血は不応状態を作りやすいので,不必要な血小板輸血の回避は必須である。次回よりの,治療の減量中止などの必要性はいうまでもない。

C. 赤血球

貧血に関しては,本人の自覚症状にもよるが,とくに化学療法中は,Hb 7g/dl は保ちたい9)。赤血球の寿命は120 日,半減期は30 日と長いため,化学療法開始後直ちに貧血が進行するわけではなく,逆に,治療終了後も進行してゆくことに留意が必要である。赤血球の輸血は,血小板のように不応性になることはまずないので,トリガー値を下回る場合には,輸血を考える。

おわりに

外来化学療法における骨髄抑制のリスクは,血球数のみによるのではなく,患者の病態,背景因子,血球回復の段階などによって大きく異なる。安全な外来化学療法は,薬剤の特性の十分な理解と,注意深い患者の観察によってはじめてもたらされる。

A. 発生機序と種類

癌化学療法による肝障害には,抗癌剤やその代謝産物による直接作用により肝細胞障害・壊死をきたすもの,肝静脈血管内皮障害による肝中心静脈閉塞症(VOD;veno-occlusive disease), 抗癌剤の長期投与による不可逆性の慢性肝線維化などがある。また,B型肝炎ウイルス(HBV)のキャリアでは癌化学療法により,HBVの再活性化が起こることがある1)。

B. 注意が必要な抗癌剤

アルキル化剤のシクロホスファミドは大量投与時やアザチオプリンなどとの併用時に肝細胞壊死やVOD を起こすことがある。代謝拮抗薬のメトトレキサートは用量依存性の肝細胞壊死を起こす。また,ゲフィチニブ,エルロチニブ,イマチニブ,トラスツズマブなどの分子標的治療薬により,重篤な肝障害をきたすことがある。

C. 予防と対応

肝障害の臨床症状には,食欲不振,悪心・嘔吐,黄疸,全身倦怠感,浮腫などがあるが,肝障害の発生時には臨床症状を伴わないことも多く,血清ビリルビン値やトランスアミナーゼなどの臨床検査値の変化に注意する必要がある。抗癌剤以外の併用薬や大量のアルコール摂取,腫瘍自体の変化による肝機能異常などの鑑別のため,服薬歴,嗜好歴などとの聴取,腹部超音波やCT などの画像検査も重要である。

重篤な肝障害の発生時には,抗癌剤の投与を中止し,安静を保ち,肝庇護剤投与などの対症療法を行う。

肝障害の予防には確立した方法はないが,HBV のキャリアにはHBV 再活性化予防のため,核酸アナログの投与が推奨されている。

D. 抗癌剤投与量調整

表12)に肝障害時の抗癌剤の投与量の目安を示すが,投与の可否,投与量の決定に際しては,抗癌剤に対する感受性,そのほかの臓器機能など,患者の状態を考慮して決定する。

表1
肝機能障害に基づいた抗癌剤の減量基準
癌化学療法による腎障害A. 発生機序と危険因子

癌化学療法による腎障害には,抗癌剤やその代謝産物による糸球体や尿細管の直接障害のほか,腫瘍細胞の崩壊による尿酸性腎症や腫瘍溶解症候群による急性腎不全などがある。危険因子には高血圧,糖尿病,脱水,水腎症の合併,NSAIDs の併用,造影剤の使用などがある。

B. 注意が必要な抗癌剤

プラチナ製剤のシスプラチンは用量依存性に腎毒性が増加する。代謝拮抗薬のメトトレキサートは大量投与時に腎毒性が問題となる。アルキル化薬のイホスファミド,シクロホスファミドは出血性膀胱炎や尿細管障害を起こすことがある。

C. 予防と対応

腎機能の評価には血液生化学検査,尿検査,画像検査などを行う。腎障害の予防の基本は十分な輸液と利尿である。強制利尿のための利尿薬にはマンニトールやフロセミドを用いる。マグネシウムを含んだ輸液がシスプラチンによる腎障害を予防することが報告されている3)。脱水が生じると腎毒性のリスクが高まるため,とくに外来化学療法においては,経口補水液などを用いた飲水指導を行うことが重要である。

化学療法高感受性腫瘍においては,腫瘍細胞崩壊によって血中に放出されるカリウム,リン,尿酸などにより急性腎不全や不整脈が起こることがあり,十分な輸液とアロプリノールの投与を考慮する。

D. 抗癌剤投与量調整

表24)に腎機能(クレアチニンクリアランス)に基づいた抗癌剤の投与量の目安を示すが,投与の可否,投与量の決定に際しては,抗癌剤に対する感受性,その他の臓器機能など,患者の状態を考慮して決定する。

表2
腎機能に基づいた抗癌剤の補正基準
おわりに

癌化学療法に伴う肝障害・腎障害の発生機序は十分に解明されておらず,確実な予防法や治療法は確立されていないのが現状である。癌化学療法を行う際には,十分なリスクの把握,投与量の調整,肝・腎障害の早期発見・早期対応を心がけることが重要である。

はじめに

薬剤性肺障害とは薬剤投与中に起きた呼吸器系障害のなかで薬剤に関連があるものと定義される。どの薬剤においても薬剤性肺障害は起こり得るが,最近ではとくにEGFR阻害薬(ゲフィチニブなど)やm-TOR 阻害薬(エベロリムスなど)といった悪性腫瘍に対する分子標的薬における薬剤性間質性肺炎が注目されている。エベロリムスによる薬剤性間質性肺炎の発症頻度は高いが,死亡頻度は低く,薬剤性間質性肺炎発症後も投与継続や再投与が可能である一方で,ゲフィチニブによる薬剤性間質性肺炎は短期間で急速に進行して死に至る場合もあり,薬剤ごとの対応が重要になってきている。

発生機序

薬剤性肺障害の発生機序は大きく2 種類に分けられる。1 つは細胞障害性薬剤によるII型肺胞上皮細胞,気道上皮細胞,血管内皮細胞に対する直接的細胞障害作用で,もう1 つは免疫系細胞の賦活化,活性化により発症すると考えられている1)。細胞障害性機序は活性酸素の関与や肺循環系に存在する多数の顆粒球,単球の活性化による肺血管床の障害があり,投与量や投与期間と関連があるとされる。一方,免疫系細胞の関与では,初回投与や少量投与でも肺障害が惹起される。

細胞障害性薬剤は投与後数週間~数年で発症し,とくに免疫反応の関与が考えられる薬剤では投与後1~2 週間で急速に発症することが多いとされるが,発症機序が不明なものも多い。

薬剤性肺障害の危険因子・増悪因子

非特異的な危険因子としては,60歳以上の高齢者,既存の肺病変(とくに間質性肺炎,肺線維症の合併は頻度が高い)の存在,喫煙による炎症性変化,職業性粉塵吸入の既往,呼吸機能低下,腎機能低下などの患者側因子があげられる。また,肺癌治療にも関連する肺手術歴,肺野への放射線照射既往なども重要な危険因子である。重篤な病態となり得るため,厳重な経過観察が必要である。

ゲフィチニブによる肺障害の予後不良因子としては,Andoらがゲフィチニブ投与を行った1,976例をレトロスペクティブに検討した結果,男性,喫煙歴あり,非腺癌,performance status 不良, 間質性肺炎,肺線維症の存在,正常肺占有率50%未満などを発症の有意なリスク因子として報告している2)。

間質性肺炎がある場合は,ゲムシタビン,イリノテカン,アムルビシンは使用が禁忌とされ,パクリタキセル,ドセタキセル,ビノレルビンは慎重投与とされている。分子標的薬のゲフィチニブやエベロリムスも間質性肺炎合併例では慎重投与とされている。

薬剤性肺障害の臨床・病理組織分類

薬剤性肺障害は臨床所見,画像所見,病理組織パターンによって特徴づけられる。

病理組織パターンを表1に示す。

薬剤性肺障害は,肺胞,間質,血管,胸膜などいずれにも起こるが,頻度が高く重要なのは間質性肺炎である。

間質性肺疾患は総称的な呼称であり,画像,HRCT による異常陰影のパターン把握が必要になる(表2)。薬剤性肺障害の病理パターンはきわめて多彩であり,その反映である画像所見もきわめて多彩な形態を示し,非特異的である。画像と病理所見は必ずしも1対1 の関連をしておらず,いずれもパターン認識になる。HRCTを用いてパターン認識することは非常に重要で,予後予測や治療反応予測がある程度可能となる。

予後良好なパターンとしてはアレルギー機序が関連した組織パターンで,好酸球性肺炎や過敏性肺臓炎,炎症主体の病態をとる非特異的間質性肺炎,器質化肺炎のパターンなどで,後述するステロイド治療に対する反応が期待できる。

予後不良なパターンとしては細胞障害性機序が関連したパターンで,びまん性肺胞障害があげられ,ステロイド治療に対する反応は低い。

表1
薬剤性肺障害の病理組織パターン表2
薬剤性肺障害の画像所見
診断

薬剤性肺障害をまず疑うことが重要で,原因薬剤の絞り込みを行うとともに,感染症や原疾患(腫瘍)の悪化などを鑑別することが必要である。

診断の流れをフローチャートに示す(図1)。

臨床所見としては発熱,息切れ,呼吸困難,乾性咳嗽などがみられるが,薬剤性肺障害に特徴的な症状はない。薬剤性肺障害を起こす頻度の高い薬剤を投与中の患者に対しては,前述の症状出現時には主治医へ連絡することや医療機関を受診することを説明・指導しておくことも,早期診断のために重要である。低酸素血症を伴っていることが多く,胸部聴診にてfine crackle(捻髪音)を聴取することもある。

非特異的な炎症,組織障害,アレルギー反応をみる検査として,CRP,LDH, 末梢血好酸球数,IgE,肝機能検査,間質性肺炎マーカーとしてKL-6,SP-D,SP-A などがあげられるが,KL-6は腫瘍性に上昇していることもあるため,前値との比較も必要である。また,これらのマーカーは間質性肺炎発症早期には正常値のこともあるため,早期診断としての意義は低い。原因薬剤特定の検査として薬剤リンパ球刺激試験(DLST)があり,IV型アレルギーが関与している場合は陽性になりやすいが,偽陰性が少なくない。DLSTが陰性であっても原因薬剤の否定はできない。鑑別すべき感染症として,サイトメガロウイルスなどのウイルス感染,ニューモシスティス肺炎,カンジダ,アスペルギルスなどの真菌感染,マイコプラズマ肺炎,レジオネラ肺炎,クラミジア肺炎などがあげられ,サイトメガロアンチゲネミアやβ-Dグルカンといった検査を行う。また,原疾患(腫瘍)の悪化,癌性リンパ管症の鑑別も重要である。

肺病理組織学的検査は間質性肺炎の診断に重要であるが,正確な組織診断は経気管支肺生検(TBLB),気管支肺胞洗浄(BAL)では困難であり,通常は胸腔鏡補助下胸部手術(VATS)や開胸による肺生検が必要である。しかし,担癌患者においては,全身状態や治療の緊急性からVATSや開胸肺生検が困難であることがほとんどで,TBLB,BAL のみが行われることも多い。抗癌剤治療による薬剤性肺障害の診断では感染症や原疾患の悪化の鑑別はきわめて重要であり,この鑑別という意味ではTBLB,BALは有効な場合が多い。

気管支肺胞洗浄液(BALF)のみでは薬剤性間質性肺炎の確定診断はできないが,否定するのには有用で,BALF に異常を認めなければ薬剤性間質性肺炎の可能性は低い。

また,TBLB の小検体でも的確な部位より採取されていれば,治療反応性,予後予測し得る組織パターンの認識が可能であったり,前述のように感染症,悪性腫瘍,肺胞出血,肺胞蛋白症など特有所見を有する疾患の鑑別に有用であるため,可能なかぎり,BALF,TBLB での検索が望ましい。

図1
薬剤性肺障害の診断フローチャート抗癌剤による薬剤性肺障害の頻度

表3に間質性肺炎の発生頻度を示す。

抗癌剤個々の薬剤性肺障害の頻度は少人数で行われた開発治験時のデータが多く,市販後の多数例での系統的調査報告は少ない。わが国で大きな社会問題となったゲフィチニブでは,Kudohらが大規模コホート内ケースコントロール試験を行っており,12週間の観察期間における間質性肺疾患の発現率はゲフィチニブ投与群4.5 %,殺細胞性化学療法群2.4%(オッズ比3.2)と報告している3)。死亡率はゲフィニチブ投与群31.6%と不良であるが,殺細胞性化学療法群27.9%と比較して大きな差は認めない。これに対し特徴的なのはmTOR 阻害薬における間質性肺炎であり,エベロリムスの間質性肺疾患発現率は17.4%と高いが,死亡率は0.7%と低い4)。

エベロリムスによる薬剤性肺障害の自検例を図2に示す。

70 歳・男性。腎細胞癌手術後肺転移再発に対してエベロリムスの内服を開始したが,投与開始後約3 カ月半で呼吸苦が出現。低酸素血症あり,胸部CT にて薬剤性肺障害が疑われた。TBLB ではリンパ球主体の非特異的炎症の所見であった。ステロイドパルス療法施行後,プレドニゾロン1.0mg/kg/day より開始,陰影と呼吸状態の改善が得られた。本症例ではエベロリムスの再投与は行わなかった。

表3
抗悪性腫瘍薬による間質性肺炎の発生頻度
図2
エベロリムスによる薬剤性肺障害
治療

治療の基本は,原因薬剤の中止,副腎皮質ステロイドの投与,呼吸不全の対応,全身管理(合併症の予防)である。肺障害の臨床像,発生機序,呼吸不全の重症度に従って速やかに治療を開始する(図3)。

軽症例ではプレドニゾロン換算で1日0.5~1.0mg/kgを投与,通常は開始量を4週間投与した後,漸減する。重症例ではメチルプレドニゾロン1,000mg/day を3 日間投与するパルス療法を行う。投薬は長期にわたることが多いため,日和見感染に対するマネジメントも必要である。ステロイド反応不良例では,免疫抑制剤のシクロホスファミドやシクロスポリンの併用も考慮する。

mTOR 阻害薬に関しては,症状がなく画像所見のみのGrade 1の肺障害では投与継続,症状を有するGrade 2 以上でも休薬のみで改善が得られることもある。また,抗悪性腫瘍薬による薬剤性肺障害では通常再投与を行わないが,mTOR 阻害薬では肺障害改善後に再投与が可能であり4),従来の薬剤性肺障害の治療方針とは異なる。

図3
薬剤性肺障害の治療概要
おわりに

薬剤性肺障害は確定診断が困難なことが多いが,早期診断,迅速な治療開始が要求されるため,画像診断(とくにHRCT での評価)や可能であれば病理組織学的なパターン認識を行うことが重要である。

A. 手掌・足底発赤知覚不全症候群,手足症候群(hand-foot syndrome;HFS)

HFS とは,化学療法中に手掌や足底にみられる,発赤,著しい不快感,腫脹,うずきなどの一連の症状につけられた名称である。

原因薬剤として,カペシタビンなどのフッ化ピリミジン系抗癌剤,キナーゼ阻害薬のソラフェニブやスニチニブ,またドキソルビシンリポソーム注射剤,ドセタキセルが代表的である。確定的な発症機序は不明である。

HFS は,手掌や足底の物理的刺激が反復して加わる部位に好発する。フッ化ピリミジン系抗癌剤によるHFS では,早期にはしびれ,皮膚知覚過敏,ヒリヒリ・チクチクといった感覚異常,無痛性紅斑・腫脹,色素沈着が認められる。一方,キナーゼ阻害薬によるHFS では,限局性の紅斑で始まることが多く,通常,疼痛を伴う。角化傾向が強いことも特徴である。いずれのHFS も進行すると,疼痛を伴う浮腫や過角化による皮膚の肥厚,水疱,亀裂,潰瘍,落屑などが出現し,歩行困難や把握困難など日常生活に支障をきたすようになる。

HFS の予防・悪化防止のためのセルフケア指導が重要である。具体的には物理的刺激や熱刺激を避ける,保湿剤を塗布し皮膚を保護する,清潔を心がけ二次感染を予防する,直射日光を避ける,などが指導のポイントである。また,あらかじめ患者へ休薬により軽快することを説明する。

Grade 分類はBlum の分類や有害事象共通用語規準v4.0(CTCAEv4.0)を用いる(表1)。確実な対処法は原因薬剤の休薬である。薬剤の再開については,各薬剤の休薬・再開・減量基準に準じて行う。

局所療法として,保湿を目的とした尿素配合剤,ヘパリン類似物質,白色ワセリン,ビタミンAなどの外用薬を使用する。腫脹が強い場合は四肢の拳上と手足の冷却が有効である。二次感染を伴う場合は抗菌薬の投与も考慮する。全身療法としてのピリドキシンのエビデンスは確立していない。ドキソルビシンリポソーム注射剤では副腎皮質ステロイドの全身投与の有効性が報告されている。

表1
有害事象のグレード分類B. EGFR 阻害薬による皮膚障害

EGFR を標的とした分子標的薬は,肺癌に対するゲフィチニブやエルロチニブ,大腸癌に対するセツキシマブやパニツムマブ,乳癌に対するラパチニブ,膵癌に対するエルロチニブなど,一次治療から三次治療まで,単剤あるいは併用で,外来でも頻繁に投与されるようになった。これに伴い,ざ瘡様皮疹や爪囲炎など特徴的な皮膚障害を多く経験するようになった。肺癌治療におけるエルロチニブや大腸癌におけるセツキシマブで皮膚障害の発現が治療効果と相関することが報告されており,皮膚障害による治療中止を可能な限り避ける必要がある。抗腫瘍効果を最大限に引き出すために,皮膚症状をコントロールし重症化させないことが重要である。

皮膚障害の典型的な時間経過を図1に,Grade 分類を表1に示す。

1)ざ瘡様皮疹

頭部,顔面,前胸部,背部などの毛孔に一致して,紅色小丘疹と無菌性膿疱が出現,散在する。重症化すると疼痛,掻痒,灼熱感を伴うようになる。また膿疱に二次感染をきたすこともある。予防的治療が重要であり,治療前日より治療開始後6~8週まで,ステロイド(1%ヒドロコルチゾンクリーム)・保湿剤・日焼け止め(4-アミノ安息香酸非含有,SPF≧15,UVA・UVB 遮断)の外用と,抗菌薬(ミノサイクリン100mg/回,1日1回あるいはドキシサイクリン100mg/ 回,1 日2 回)の経口投与が推奨されている。

2)皮膚乾燥(乾皮症)

全身に細かな鱗屑が付着,掻痒が出現する。乾燥が顕著になると,指趾先端,手掌や足底に亀裂を生じ,激しい痛みで日常生活に支障をきたすこともある。基本的な対応は,保湿,直射日光を避ける,入浴時にはぬるめの湯を使用する,などである。疼痛を伴う亀裂に対してはstrong class 以上のステロイド外用薬を使用する。また二次感染に注意が必要である。

3)爪囲炎

爪甲周囲の発赤,腫脹に始まり,爪の陥入に伴う肉芽形成を認めるようになる。さらに進行すると,激しい痛みを伴い日常生活に支障をきたす。局所の清潔を保つことが重要であり,また患者自身でも可能なテーピング法(爪囲炎発現部の爪と指に隙間を作るように皮膚を引っぱりながらテープを巻く)の指導を行う。ステロイド外用薬を用いるが,細菌感染を合併している場合はステロイドを中止し,抗菌薬の内服へ変更する。肉芽に対する凍結療法(液体窒素),外科的処置(爪形成術,部分抜爪など)が必要となることもあるため,症状が悪化する前に皮膚科医にコンサルトすることが望ましい。

図1
EGFR 阻害薬による皮膚障害の典型的な時間経過
粘膜障害A. 口腔粘膜炎

口腔粘膜炎は化学療法を受ける患者の約40%にみられる。化学療法による口腔粘膜炎の発生機序として,(1)粘膜基底細胞のフリーラジカルによるアポトーシス,(2)白血球減少・好中球減少に伴う口腔内感染,の2 つが考えられている。口腔粘膜炎を起こしやすい化学療法剤を表2に示す。口腔粘膜炎は,舌側縁,頬粘膜,軟口蓋など可動粘膜に発症する。治療開始後10~12 日に症状のピークを迎え,粘膜の変化よりも疼痛が先行することが多い。

口腔粘膜炎はまず予防が重要である。軟毛ハブラシを用いたブラッシングによる清潔保持,生理食塩液や保湿洗口液などを用いた含嗽による保湿など,セルフケアの習慣化を指導する。化学療法前に齲歯や歯周病の有無,義歯の状態など口腔内の状態を確認し,口腔粘膜炎の発症頻度が高い化学療法剤を用いる場合は事前に歯科受診を勧めることが望ましい。化学療法時の予防法として,5-FU 急速静注に対するクライオセラピー(氷片を口に含む方法)は有効である。

口腔粘膜炎が生じたら粘膜保護により悪化を防ぎ,鎮痛などによる症状改善に努める。熱いものや固い食物を避け,義歯装着は食事時のみにするなど,物理的粘膜損傷を避ける。アズレンによる含嗽を1 日6~8 回確実に行い,疼痛が強い場合は含嗽剤に局所麻酔剤(塩酸リドカイン)を混和する。効果が少ない場合は,アセトアミノフェンやNSAIDs,オピオイドなどの全身投与を併用する。食事の刺激で疼痛が増強する場合は,速放性オピオイドを毎食30 分前に服用させるとよい。

表2
口腔粘膜炎の発症頻度が高い化学療法剤
おわりに

化学療法による皮膚・粘膜障害の対処は,患者自身によるセルフケアがもっとも重要である。患者支援は担当医,看護師だけでなく,皮膚科,歯科,薬剤師,栄養士との連携・協力が不可欠である。


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